暮らしの保健室

暮らしの保健室の仲間たち:クロッセ秋田 暮らしの保健室〜秋田県秋田市〜

コミュニティの特徴

秋田県の県庁所在地である秋田市は、県人口の約3割にあたる約31万人が住む。東北3大まつりの一つ「秋田竿燈まつり」で知られ、5つの酒蔵がある酒どころでもある。
古代から開かれ、特に室町時代以降に栄えた秋田港は日本海北部の海運の要港。北前船の往来で江戸〜明治期の秋田に隆盛をもたらした。
現在の秋田県の中心部でもある秋田駅は、秋田新幹線で東京駅まで約4時間というターミナル駅。駅周辺の商店街は駅ビル出口からアーケードが続く。シャッターの降りた店も多くなっていたが、近年コンパクトシティを目指して再開発が進められている。

  • 秋田県の県庁所在地としてインフラが整う
  • 日本海沿いに位置し、東北日本海側としては降雪は少なめ。
  • 東には出羽山地、西には「夕日の美しい日本海」が広がる緑豊かなまち
  • 住宅地平均価格は全国一安く、住居のうち一戸建て比率が全国一
秋田市の基本データ(令和3年2月1日現在)
  • 面積:906.07㎢
  • 人口:303,337人
  • 世帯数:137,184世帯
  • 人口密度:335人/㎢
  • 年齢3区分別人口
    • ・年少人口(15歳未満):10.8%
    • ・生産年齢人口(15~64歳):56.9%
    • ・老年人口割合(65歳以上):32.3%
移動

市内を通る在来線は、日本海沿いを新潟から北上するJR羽越本線、福島から秋田駅を経て青森駅に至る奥羽本線があり、市内をほぼ縦断している。秋田駅からはバス網も発達しているが、市民の移動手段は自家用車に大きく依存。
県外との往来は、秋田新幹線で東京駅まで約4時間。秋田市内にある秋田空港、秋田自動車道も利用される。

社会資源

市立秋田総合病院、秋田大学医学部附属病院、秋田厚生医療センター、秋田赤十字病院ほか22の病院がある。県内の主要病院が集中しているため、秋田市以外からの受診も多い。人口10万人あたりの医療資源はほぼ全国平均同等か、上回っている。介護資源は、75歳以上1000人あたりの数でみると、入所型、訪問、通所型すべてにおいて全国平均よりやや少ない。

「暮らしの保健室」のあるクロッセ秋田

秋田版CCRC(詳細は後述)として建てられたテナントと住居の複合型ビル。秋田駅西口から続くアーケード街の、駅から徒歩4分のところに位置する。
1階には北都銀行秋田駅前支店、秋田信用金庫秋田駅前支店、薬局が入っている。「暮らしの保健室」のある2階は「交流フロアー」。北都銀行保険プラザ秋田駅前、喫茶店、秋田ケーブルテレビ、秋田終活支援センターが並び、交流スペースもある。3階には内科クリニックと美容クリニックが開業しており、4階は歯科や美容サロンがオープン予定。
5階から17階は分譲住居となっており、全60戸がオープン前に完売している。

クロッセ秋田

クロッセ秋田 暮らしの保健室の概要

  • スタッフ

    9名(保健師1、ボランティア8)
  • 利用者数

    1〜2名/日
  • 設置主体

    秋田版CCRCプロジェクト(秋田不動産サービス、大京、ミサワホーム、北都銀行、秋田信用金庫)
  • 運営

    特定非営利活動法人ホームホスピス秋田
  • 開設日

    2020年12月
  • 所在地

    〒010-0001 秋田県秋田市中通2-5-1 クロッセ秋田2F
  • 電話・FAX

    018-838-5666(平日10時〜15時)
  • (ビルの隣に公営駐車場あり)

立ち上げたきっかけ

秋田県における地方創生会議

地方創生が盛んに持ち出され、人口減少に歯止めをかけようと、あちこちの自治体がさまざまなアイデアを募集し、その効果をニュース等で取り上げられて久しい。そこに繰り広げられるのは、高齢者のみならずすべての人が暮らしやすいまちづくり。そこには医療や介護が必要になっても少ない資源の中でも、手に届くところにあるという条件をそろえるために、在宅医療の仕組みも取り込まれるところが多かった。
医療資源の少ない地方では、できるだけ元気に過ごしてもらえるような工夫を取り込み、要介護者を増やさない努力を率先して始めるところも出てきた。
秋田県では、「秋田創生会議」と銘打って、地方創生にもっと良いアイデアはないのかと各界の論客を呼び議論。その都度、その内容は地方新聞に掲載され、仕掛け人の北都銀行はこれからの秋田の良さを見直し、産業も含めての活性化を図ろうとのアドバルーンを揚げ積極的な動きを見せた。

秋田版CCRC

CCRC(Continuing Care Retirement Community)とは、リタイアした高齢者が健康な段階で入居し、継続的なケアを受けながら終身で暮らすことができる、アメリカ発祥の生活共同体のことである。アメリカでは郊外の広大な土地に、街づくりのように計画的に建てられたところに数百人規模で高齢者が住んでおり、そのようなところは全米で2000カ所にも増えている。
通常の高齢者施設と違うのは、元気なうちからコミュニティに移り住むことで、新たな地域共同体の一員となる点である。いずれ医療や介護が必要になっても他の施設へ移る必要がなく、同じ場所で適切なケアを受けながら暮らせることが特徴とされる。
秋田県でも産官学が知恵を出し合い、このCCRC秋田版をと取り組んで来た。

駅近の暮らしの保健室誕生

筆者は秋田出身で、たまたま、北都銀行頭取が高校の同期ということもあり、秋田創生会議に委員として呼ばれた。そして、高齢化の進んだ団地で展開する「暮らしの保健室」について、地域包括ケアの一環でもあるとの説明も入れて話をする機会を与えられた。
要介護状態になる前からの気軽なよろず相談の窓口が町の中にあることの意味を強調して話したが、町と言っても密ではない地方都市では、なかなか実現しにくいだろうとの手ごたえだった。
しかし、これがきっかけで、北都銀行秋田駅前支店の改修後に建つ秋田版CCRC の建物「クロッセ秋田」の2階に「暮らしの保健室」が誕生することになった。
北都銀行は、秋田駅前支店を改修するときに、建設会社とタイアップして「秋田版CCRC」を意識して、店舗の上に高層のマンション(クロッセ秋田/全60戸)をつくり、分譲を始めた。
秋田駅西口のアーケード・ぽぽろーどを抜けて直ぐの左側の建物で、秋田市民市場も近い。県内の相場からすると高い価格にもかかわらず、あっという間に秋田県内はもとより、東京方面など他の地域からの希望者も多く完売。2020年10月にはお披露目会、12月からは移住が始まっている。それに合わせ、暮らしの保健室もオープンした。

活動の様子

マンションの1階は銀行の支店と信用金庫、2階は保険の活用相談や、終活相談もあったり、ちょっとしたカフェがあったりする。その一画に「暮らしの保健室」の場所も確保され、運営は秋田市内でホームホスピスを運営している「特定非営利活動法人ホームホスピス秋田」に任された。
同法人は「ホームホスピスくららの家」も運営しているので、オープン当初は理事長で秋田大学教員の中村順子さんと、ボランティア1 人が毎週月曜日に開くことから始めた。
初めての来訪者はクロッセの住人。地域包括支援センターの場所を聞きに来ながら、話し込んでいかれた。秋田市には県の主要病院が集中しているため、市外からの受診も多い。そのため、秋田駅に近い場所で相談ができるというのは、好都合だろう。2021年3月現在ではボランティアも増えて平日は毎日オープンしている。クロッセ秋田内のクリニックや、秋田市の地域包括支援センターとの連携も始まっている。
この「駅近の暮らしの保健室」が、これからどんな展開になるのか未知数だが、このような形は他の地域にも応用が利きそうである。

活動の様子

クロッセ秋田 暮らしの保健室を訪ねて

新型コロナウイルスの感染拡大防止のためリモートワークが重要視される今、ますます、都市圏を離れての居住地探しはブームになっていくのではと予感さえ抱く。
そんな中、過疎化が進み、高齢化率の高い地方都市・秋田の駅前にCCRCを造る計画の中に、気軽に健康相談を含め、よろず相談や、ミニコミュニティの創出にと「暮らしの保健室」が誘致された。
大学との連携型のCCRCも人気とか。高齢者が大学で好きな学問を学んだり、教えたりと、ただ生活するだけではなく「生涯学び続けたい」という自己実現の場にもなったり、大学生とも交流することで、世代間交流も実現できたりと、生きがいを見いだせるような環境づくりに工夫がみられる。
広大な土地、移動は車で、車が運転できなくなったら、他の移動手段があり、そういう意味では、比較的富裕層のために用意されたものではないかと推察されるが、これからの超高齢社会、しっかり働いて公的年金が保証されている今の高齢者たちにとって、手が届く内容ではないかと思われる。
高齢者がある意味、前向きに暮らすその姿から、よいところを抜き出したような記載が目立つが、エンドオブライフケアの部分はどうなっているのか、気にかかる処でもある。

取材日:2020年11月15日
レポート:秋山正子

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