暮らしの保健室

暮らしの保健室の仲間たち:暮らしの保健室ふくまち〜広島県福山市多治米町〜

コミュニティの特徴

福山市は、広島県の東部、備後地域にある。中国地方では、広島、岡山に次ぎ、非県庁所在地の都市圏としては、全国5番目の規模の福山都市圏の中心都市。城下町として栄えてきた福山市は、世界最大級の鉄鋼一貫製鉄所を抱える重工業都市として発展し、造船、機械産業などが集積する。
四季を通して穏やかな気候と、瀬戸内海国立公園屈指の景勝地、鞆の浦、山野峡県立自然公園などの豊かな自然に恵まれ、史跡も多く残されており、福山城や明王院などは国の重要文化財や国宝に指定されている。5月と10月には、市内40万本のばらが咲き誇る、ばらのまち福山。

  • 瀬戸内の温暖の気候と自然に恵まれた暮らしやすい環境
  • 工業都市として発展した都市
  • 多治米地域は、働きざかり、子どもが多い
  • 住宅街に立地する「地域密着型特別養護老人ホーム」の入り口に設けられた地域交流スペースで、「暮らしの保健室」を展開
  • 高齢者とその家族、子育てママやこどもたちなど、地域のさまざまな人々が出入りできる“安心の場”
  • 医療・保健・福祉・公民館・社協・小学校・学生など、職種・世代をこえたつながりで活動を展開
福山市の基本データ
  • 面積:581.14㎢
  • 人口:466,699人(2021年1月1日現在)
  • 世帯数:212,356世帯(2021年1月1日現在)
  • 人口密度:803.1人/㎢
  • 年齢3区分別人口
    • ・年少人口(15歳未満):13.2%
    • ・生産年齢人口(15~64歳):58.2%
    • ・老年人口割合(65歳以上):28.6%
  • 出生率8.0(全国7.4、広島県7.7)、合計特殊出生率1.60(全国1.42、広島県1.55)(2018年)
移動

山陽新幹線福山駅が通り、主要都市へのアクセスも良い。JRの他、路線バスが充実している。鞆港を結ぶ航路も存在する。

社会資源

3つの公共・公的病院のほか、約40の中小民間病院が地域医療を担っている。介護施設数は全国平均と比べて多く、介護資源は充実している。

暮らしの保健室ふくまちのある多治米地区
  • 人口:9,086人(2020年3月末現在)
  • 世帯数:4,427世帯(2020年3月末現在)
  • 年少人口(15歳未満):1,247人(13.7%)
  • 生産年齢人口(15~64歳):5,599人(61.6%)
  • 老年人口割合(65歳以上):2,240人(24.7%)
参考:〈さくらホームのある鞆の浦地区〉
  • 人口:4,248人(2020年3月末現在)
  • 世帯数:2,239世帯(2020年3月末現在)
  • 年少人口(15歳未満):263人(6.2%)
  • 生産年齢人口(15~64歳):1,860人(43.8%)
  • 老年人口割合(65歳以上):2,125人(50.0%)

地域密着型特別養護老人ホーム五本松の家・暮らしの保健室ふくまちの概要

  • スタッフ

    49人
  • 利用者数

    入居者(特養)29名、ショートステイ20名、デイサービス25名
  • 設置主体

    社会福祉法人祥和会
  • 開設日

    2017年6月
  • 所在地

    〒720-0824 広島県福山市多治米町6-14-26
    地域密着型特別養護老人ホーム五本松の家
  • 電話番号

    084-999-6321
  • ※同市沖幕山台の虹の会訪問看護ステーション幕山台サテライト内に「暮らしの保健室ふくまちin幕山」がある。

暮らしの保健室の立ち上げ

地域密着型特別養護老人ホーム五本松の家 施設長 田原 久美子さん施設長 田原 久美子さん
立ち上げた人

地域密着型特別養護老人ホーム五本松の家 施設長 田原 久美子さん

社会福祉法人祥和会地域密着型特別養護老人ホーム五本松の家施設長、看護師・保健師・精神保健福祉士・介護支援専門員、コミュニティナース。奈良県立五條病院付属看護専門学校・奈良県立保健婦学院卒業後、奈良県・広島県内の行政保健師として勤務。2002年より、急性期の脳神経センター大田記念病院にて退院支援・看護師教育・地域連携に携わっていた。2017年より現職。

地域密着型特別養護老人ホーム「五本松の家」と同時に誕生した「暮らしの保健室」

母体である脳神経センター大田記念病院は、1976年の開院から脳血管障害を中心とした急性期医療機関。1996年からは訪問看護事業が開始され、急性期から在宅療養、そして終末期に至るまでの円滑な「ケア・サイクル」を実現できるようにと、2016年に社会福祉法人祥和会を設立。その翌年、地域密着型特別養護老人ホーム「五本松の家」が建設され、施設の玄関横にあるガラス張りの地域交流スペースで「暮らしの保健室」をオープン。

立ち上げたきっかけ

「暮らしの保健室ふくまち」の構想の原点は、法人理事の大田章子さんと施設長の田原久美子さんの子供会の役員経験にある。当時、町内会名簿に載っていた電話番号には地域のいろいろな人から、「病院はどこに行ったらよいだろうか」などの電話があり、「地域に相談できる場が必要だ」と気づく経験となったと言う。「役員をやったからこそ、地域とのつながりが持てたし、地域の人の顔が見えるようになった」と振り返る。「地域包括ケアシステムの構築の推進と言われていても、高齢化が進行し、人口も減少し、地域活動は衰退していく。そのような地域の中で医療・介護が果たせることはないだろうか」と思いがつのる中、秋山正子さんの「暮らしの保健室」の活動を知り、「暮らしの保健室全国フォーラム」に参加したことをきっかけに「暮らしの保健室ふくまち」の開設へとつながった。

運営スタッフと資金

「暮らしの保健室ふくまち」のスタッフは、専属で配置せず、「五本松の家」の職員で運営している。相談対応には、地域包括支援センターの職員や退職した保健師のボランティアの協力も得ている。地域交流スペースは、普段は「四つ葉カフェ」として、100円で珈琲を提供し、地域住民に開放している。会議室として、地域の長寿会や役員会等の集まりや病院の看護師長会や関係者に無料で貸し出しも行っており、珈琲を提供し、珈琲代を得ている。

活動の様子

特養の入り口で「ふくまちよろづ相談」

施設入り口、玄関横のガラス張りのお部屋の地域交流スペースが「暮らしの保健室」の活動の場。「ふくまちよろづ相談」として、天気のいい日はオープンカフェのスタイル。個室も用意されているが、希望する方はほとんどいないという。月・水・金の午前中と看板を出し、近くの地域包括支援センターの職員や退職した保健師のボランティアが相談対応しているが、特養の職員が、24時間365日、いつでも相談対応している。相談は、「施設や介護保険について知りたい」「病院をどうやって選んだらよい?」「リハビリはいつまで?」「健診結果について相談したい」「介護や看取りについて語り合いたい」などさまざまである。

地域の人々と共に「おしゃべり体操教室」

毎週金曜日の午後には、「おしゃべり体操教室」を開催。開催初日は、関係機関の見学者が大勢集まり、地域の注目が集まったという。今では、地域の回覧板や口コミから参加者が増え、参加者で会場がいっぱいになるほどの大盛況。最初の30分は介護や予防に関する話と体操を行い、後の30分はお茶を飲みながらのおしゃべりタイム。準備も片づけも参加者が積極的に行っている。
おしゃべりタイムには、近くの地域包括の職員が出向いて相談に応じている。高齢者にとっての交流の場は、安心の場にもなっており、地域包括の職員にとっても、一軒一軒訪問することなく、対象の様子が把握でき、早期に必要な支援につなげることができる貴重な連携の場になっている。
また、おしゃべり体操教室には、当番制で特養の理学療法士である20代の若い男性スタッフが関わっているが、高齢女性に大人気であり、若いスタッフは、地域の皆さんに大事にしてもらいながら、集団教育の経験も積むこともでき、職員の人材育成の場にもなっている。
新型コロナ感染拡大によって、一時休止していた「おしゃべり体操教室」は、活動の場を屋外へと移し、「おしゃべりウォーキング」として再開している。参加者は久しぶりの再会に、ソーシャルディスタンスをとりながらのおしゃべりも弾み、元気になれる時間となっている。

特別企画:夜の「スナック五本松」で語り合う

スナックと言えば“ママ”。でも、「スナック五本松」のママは毎回交代する。最初は施設長の田原さん、次に病院の看護部長、そして法人の男性理事長もママ役を引き受けた。地域の運動会に出向いた看護部長がさんに子どもたちから“ママだ!”と声がかかるほど、「スナック五本松」のチラシは町内会の回覧でも大人気。
参加費は500円で、基本的にはお酒とおつまみ。地域の方の手作り料理を差し入れや、参加者の持ち込みもあった、にぎやかに盛り上がる。医療や介護の学びの場も、お酒も入り、砕けた雰囲気で医師と話せる貴重な機会となっている。
「スナック五本松」の参加者は、地域住民、利用者・家族、ボランティア、市役所職員、他の病院の職員、ケアマネジャー、大学生など、20~70歳代まで年代も幅広く、参加したことがある人は今では50人以上と広がって、住民主体の健康づくりの活動として、新聞にも取り上げられている。

子どもたちも出入りできる高齢者施設としての様々な活動

ほんとうのことが知りたいママクラス

「雑多な情報に惑わされずに、本当のことが知りたい」という子育てママの声を受けて、助産師の協力を得て、月1回集まり相談会を実施。ママクラスの参加者は普段もお茶を飲みに訪れ、スタッフや入居者と交流している。※現在休止中

たじめ寺子屋

地域交流スペースを多治米小学校区の「まちづくり推進委員会」に加盟する団体に貸し出し、地域の方々に気軽に来所してもらう活動を実施。夏休みには子供会と合同で寺子屋を開催。寺子屋は公民館でも行っている。

小学校の総合授業や中学生の職場体験

子どもたちが勉強したり、遊んだりと通うようになったことから、小学校6年生の総合授業と提携することに発展し、子供たちが自分で企画したものを高齢者に対して提案しに毎月持ってくることに。中学生は年に1回、職場体験に訪れ、ここでの仕事を学んでいる。

地域の小さな子どもたちと高齢者との交流

地域の小さな子どもたちが施設に出入りできるように、夏休みの体操教室として、デイサービスの高齢者に協力してもらい、ヨーヨーつり、金魚すくいをデイサービスと一緒に開催している。地域のお母さんたちの話を聞いたり、子ども同士が触れ合ったりできる高齢者施設となっている。

地域の様々な機関と協働した活動

公民館と協働した「サロン事業」

地域の公民館は福山駅前通りの北側に位置し、「ふくまち」は駅前通りの南側に位置しており、南側の地域住民が公民館に行きにくいことから、「ふくまち」でサロン事業を展開している。
公民館主催ということから、行政保健師によるフレイル予防の話、地元のスポーツクラブの運動指導士による体操などのプログラムを行っている。この準備・運営には、町内会の役員が協力しており、地域のさまざまな職種や人々が訪れる機会にもなっている。また、「公民館だより」でも「暮らしの保健室」が紹介され、より多くの地域住民に知ってもらえるようになっている。

「地域ケア会議」への参加

地域包括支援センター主催の「地域ケア会議」には、「五本松の家」の職員が参加しており、そこには社会福祉協議会、民生委員、町内会の住民、行政保健師が集まっていることから、顔の見える関係づくりができており、連携もとりやすく、円滑な活動となっている。

小学生とのコラボによるオープンストリートへの参加

2019年には、「オープンストリートふくやま」というイベントで、小学校とコラボによる暮らしの保健室を展開している。小学生が手浴を行い、地域住民とコミュニケーションをとれるようバックアップしたもので、小学校が協力機関を探していると、まちづくりをしている人から声がかかり、実現した。事前に小学生にはツボを勉強してもらい、地域の看護職にも参加してもらい、小学生の温かい手が訪れた人々を元気にする場を生み出した。

暮らしの保健室ふくまちを訪れて

広々とした運動公園に隣接した住宅街の中にある地域密着型特別養護老人ホーム「五本松の家」の入り口の設けられた地域交流スペースは、天気のよい日は窓ガラスが外され、広い空とそよ風を感じる気持ち良い空間。誰もが利用できる解放されたその空間は、様々な活動を通して、子どもから大人まで集まる交流の場となっている。2017年に開設して3年、「地域の人に活用してほしい」という願いのもとに始めた「暮らしの保健室ふくまち」は、今では、地域の人々に「ここには“暮らしの保健室”があるから安心」と言われる存在となっている。

ここでの活動の運営には、特養のスタッフに加え、近くの地域包括支援センターの職員や専門職のボランティア、地域住民、時には特養の高齢者も加わっている。運営するスタッフも参加者も、他者との交流を通して、楽しい時間を過ごす中から安心感が生まれ、力が引き出され、自信へとつながっていく。一つの活動の中に、相談、学び、安心、交流、連携、育成の機能が全て盛り込まれており、人々のつながりが新たな活動へと拡がりを見せている。

施設長の田原さんは元行政保健師の経験を持つ。田原さんが“地域密着型”にこだわって始めた活動もまた開放的。どの活動も地域の様々な人々に声をかけ、ゆるやかに巻き込み、その力を生かし、人々をつなげていく。皆がHappyになる仕掛けによって元気になった人々の信頼が積み重なっている。改めて「暮らしの保健室」は、地域の人々のもつ力をつなげ、その力を育む場であると実感した。

取材日:2020年11月8日
レポート:米澤純子

PAGE TOP