暮らしの保健室

暮らしの保健室の仲間たち:まちの保健室 應典院〜大阪府大阪市天王寺区〜

コミュニティの特徴

大阪市は、大阪府の県庁所在地で24の行政区がある政令指定都市。淀川の河口に開けた古くからの港湾都市で、江戸時代には全国からの物資の流通拠点となり、“天下の台所大坂”と呼ばれ国内最大の経済都市として栄えた。現在も市内総生産は約20兆円で、政令指定都市では最大(2016年度)。
梅田を中心とする「キタ」や心斎橋、難波を中心とした「ミナミ」が2大繁華街として発展しており、また、中之島、淀屋橋など北浜エリアには古くからの金融街が形成されている。商人、財界人による寄付文化の発展した街としても有名。

  • 古くから栄えた経済都市で金融街も形成
  • 国内有数の繁華街も発展
  • 超高層ビルが立ち並ぶ一方で、生活保護受給者数の人口比が最も高い市という特徴も
  • 大阪府は全国2位の寺院数。その3割強が大阪市に集中。
大阪市の基本データ(令和3年2月1日現在)
  • 面積:225.32㎢
  • 人口:2,753,448人
  • 世帯数:1,463,653世帯
  • 人口密度:12,220人/㎢
  • 年齢3区分別人口
    • ・年少人口(15歳未満):10.6%
    • ・生産年齢人口(15~64歳):63.8%
    • ・老年人口割合(65歳以上):25.6%
移動

関西の中心地として公共交通機関が発達。新幹線の停車駅であるJR新大阪駅は、泉佐野市にある関西国際空港とともに関西圏の玄関口となっている。市内都市部にはJR大阪環状線が走り、その多くの駅で各地方へのJR、私鉄各線やOsaka Metroと連絡している。各地方への私鉄6路線もあるほか、Osaka Metroは9路線あり、ニュートラムやシティバスも整備されている。

社会資源

大阪市立総合医療センター、大阪市立大学医学部附属病院、大阪病院(旧大阪厚生年金病院)はじめ、大阪市医療圏には174もの病院、3,099の一般診療所がある。人口10万人あたりの施設数でみてもかなりの充実度。介護サービスも同じく充実しており、都市部でありながら入所型施設の定員数も全国平均と同等数程度になっている。

まちの保健室 應典院 のある大阪市天王寺区の基本データ
  • (令和3年2月1日現在)
  • 人口:82,390人
  • 世帯数:42,315世帯
  • 人口密度:17,023人/㎢
  • 年齢3区分別人口
    • ・年少人口(15歳未満):13.3%
    • ・生産年齢人口(15~64歳):66.2%
    • ・老年人口割合(65歳以上):20.4%
  • 下寺町を含む南北1400m、東西400mのエリアに約80のお寺が集中しており、府内では随一、全国でも珍しい寺町。下寺町は規制によって450年前からの街並みが保存されている。繁華街のミナミからは徒歩10分
  • 近年タワーマンションが増え、比較的若い家族も多く、文教地区としても知られる

まちの保健室 應典院の概要

  • スタッフ

    5〜6名(看護師3、應典院スタッフ2〜3)
  • 利用者数

    1日平均10〜15名
  • 主催

    大阪府看護協会
  • 共催

    浄土宗 應典院
  • 協力

    浄土宗 大蓮寺
  • 開設日

    2020年6月
  • 所在地

    〒543-0076 大阪市天王寺区下寺町1-1-27
  • 電話番号

    06-6771-7641
  • ※原則毎月第4水曜日に開催:13時30分~15時30分

まちの保健室應典院の立ち上げ

  • 高橋弘枝さん高橋弘枝さん
  • 秋田光彦さん秋田光彦さん
立ち上げた人

大阪府看護協会 会長 高橋弘枝さん
大阪府看護協会 地域包括ケア事業部 部長 梶山直美さん

浄土宗大蓮寺・應典院 住職 秋田光彦さん
浄土宗大蓮寺・應典院 主査 齋藤佳津子さん

立ち上げのきっかけ

大阪府看護協会での取り組み

「まちの保健室」は、日本看護協会が全国の看護協会に呼びかけて2001年から取り組んできた事業である。都道府県看護協会や既存の福祉施設、商業施設などに特設ブースを設け、看護師が健康チェックをしたり、健康や出産・子育て、介護などの相談を受けたりする活動だ。
大阪府看護協会では、2002年から「まちの保健室」活動を展開。2012 年に公益社団法人になったことでさらに地域貢献を重視し、相談事業に力を入れてきた。2019年度には定例の8つの活動拠点の他にイベントなどでの開催も含め、86回を開催。しかし、もっと地域に根付いた活動にしたいと、新たな動きが始まっている。
今までのように看護協会から看護師が出向いて保健室を開催するのではなく、地元の人による保健室が立ち上がるのを支援する役割へと徐々に移行する一環として、お寺でのまちの保健室を始めるに至った。

お寺が大切な社会資源である大阪

地域の病院などにも「保健室のような機能を」と提案してきた一方で、高橋さんは大阪では特に人々の暮らしに近い存在の、お寺という場についても可能性を感じていたという。
「特に大阪は独居の高齢者がとても多い場所です。心の癒しを求めながら集まるところが地域のどこかにあればと考えたときに、お寺は人の集まる場としては大変貴重です」(高橋さん)
その頃地域で、保健室のような場をつくりたいと考えていたのが、劇場型の本堂を持つ“開かれたお寺”として、1990年代から知られる天王寺区の應典院であった。近年の少子高齢化の流れとともに、社会的孤立や無縁仏の問題が表面化したことから、お寺ならではの活動をと「お寺の終活プロジェクト」なども開始し、誰でも集い話のできる場を設けてきた。
双方を知る、“看仏連携”の提唱者であり、僧侶で医療経営コンサルタントの河野秀一さんが、大阪府看護協会と應典院を縁結びし、お寺でのまちの保健室が実現した。

大蓮寺側入口
運営体系・スタッフ

大阪府看護協会に登録している有償ボランティアで、医療機関や保健所などを定年退職した保健師や助産師が派遣され、相談に乗るスタイル。
広報や運営ほか、場所を整えてお出迎えや案内、話し相手をするような、他の多くの暮らしの保健室でのボランティアのような働きは、應典院のスタッフが担っている。

活動の様子

原則として、毎月第4水曜日の13時30分~ 15時30分に開催されている。
掲げられている内容は以下のとおり。

  • 血圧・体脂肪・握力測定、生活習慣病・介護予防相談、看護・介護相談
  • 乳幼児の身長・体重測定、妊娠・出産・育児相談
  • 僧侶による人生相談

地域の人たちが相談に訪れるほか、若いお母さんや子どもの姿が見られる。應典院の隣には、同院の「親寺」である大蓮寺が約70年前に設立した幼稚園があり、現在約400人の園児が通っている。そのため、お迎えの前後にはお母さんと園児、きょうだいも一緒に立ち寄る。子育てと仕事に忙しく、自分の健康は後回しになりがちなお母さんたちにとって、「まちの保健室」は、子連れでもちょっと立ち寄れる貴重な相談の場になっているようだ。
相談員の看護師や保健師は、園児のお母さんたちの親世代にも近いためか、健康チェックをしてもらいながらもリラックスして、子どもの食事のことなどいろいろな話をする様子が伺えた。

相談の様子

暮らしの保健室の6つの機能について

應典院でのまちの保健室は、月に1回の開催であるが、もともとのお寺の持つ他の機能が、暮らしの保健室の6つの機能に近いため、まちの保健室としての相談窓口や交流の場以外の機能も補完されている。

  • ①相談窓口…医療や健康に関すること、さらに人生相談は「まちの保健室」で相談。人生のしまい方について気になる人は月1回の「おてら終活カフェ」や、それ以外の機会にも應典院職員と話ができる。
  • ②市民との学びの場…劇場型寺院・應典院を拠点に、多彩な芸術文化活動を推進するアートNPO「應典院寺町倶楽部」が主催する現代版の寺子屋活動「寺子屋トーク」、「総合芸術文化祭コモンズフェスタ」などを過去には多数開催してきた。2021年3月からはお寺とコミュニティ・ケアの可能性を考える「應典院オンラインセミナー」も始まった。
  • ③安心な居場所…應典院は、宗派を問わずに誰でも利用できる寺院。広々したエントランスホールには、たくさんの書籍が置かれており、何もなくてもぶらりと立ち寄って読書もできる。
  • ④交流の場…「おてら終活カフェ」や2021年3月から始まった「應典院オンラインセミナー」では、では、さまざまなゲスト講師を招いている。テーマによって、若者からお年寄りまで、多くの人が参加し、交流が生まれている。
  • ⑤連携の場…まちの保健室を始める一つのきっかけが、まさに“看仏連携”の一環であった。現在は本堂1階に訪問看護ステーションもオープンしているため、さらに、地域医療、介護との連携の発展が期待される。
  • ⑥育成の場…もともと應典院は、何か世の中の役に立ちたいという若者が集い語り合う場でもあった。今も、「おてら終活カフェ」の参加者が、自身の専門分野についてのコーナーを持ち始めるなど、ボランティアを育成する場として機能している。

新型コロナ下でのまちの保健室應典院

当初は2020年4月から開始の予定だったが、2ヵ月遅れの6月にスタート。風通しの良いエントランスホールで行われている。大阪府内の他の拠点ではまちの保健室の開催中止が続く中、お寺の使命としても門戸を閉ざさずに、月1 回、感染対策をしながら続けられている。

コミュニティケア寺院としての再出発

浄土宗大蓮寺の塔頭寺院である應典院は、江戸時代にこの地に建立され、戦災により全焼した後1997年に再建された。本格的な照明や音響装置も揃う席数100 の劇場型の本堂があり、若者による演劇や音楽、アートなど、年間100 以上のイベントが開催される、“開かれたお寺”の先駆け。近年では、地域社会のニーズにあわせ、2018年から「お寺の終活プロジェクト」を開始。その一環で、月に1 回「おてら終活カフェ」として、市民が僧侶やカウンセラーと話のできる場も開催。そこに、退職後の看護師が参加することも多く、健康のことについてのミニコーナーを持ち始めていた。
應典院住職の秋田光彦さんは次のように話している。

「お寺ってもともと学びの場でしたね、とか、福祉や医療の場でもありましたよね、という話はみなさんよくされます。ただそれは“かつて”お寺は寺子屋だった、駆け込み寺だったと、昔話のように語られること。では現代どうなのかと問われることが大きな課題でした」

2020年10月には、本堂1 階を拠点に訪問看護ステーション「さっとさんが應典院」もオープンした。再建から23 年の間に、さまざまなプロジェクトを紡ぎながら、お寺の持つコミュニティケアの機能をひとつずつ復活させている。

お寺と地域の新しいつながり直し

近年では檀家さんのお寺離れが顕著とは聞くが、そのような時代においてもお寺が人々の暮らしに身近な大阪の文化は、とても新鮮に感じられた。月命日にはお坊さんが家に来てお経をあげてくれ、そこでの僧侶との対話もまた、高齢者にとっての心の拠り所でありグリーフケアになっている(高橋弘枝さん談)というのも、この取材で知ったことだ。また、秋田住職の言葉を聞き、そういえばお寺というのは古来、もっといろんな機能を持ち合わせていたはずと思い出した。実は、他の地域でもお寺での暮らしの保健室が始まっている。法事以外にもお寺から地域に積極的に出ていくお坊さんたちと、何もなくてもぶらりと立ち寄れるお寺という場の力が、今後、地域の中でどういう役目を果たし、地域をどう変えていくのだろう。新しい形でのつながり直しが、少し楽しみになっている。

取材日:2020年8月26日
レポート・撮影:神保康子

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