暮らしの保健室

3年間の調査を振り返って

秋山 正子秋山 正子

地域の方が自由に行き来できる、相談の場、つながる場、学びの場…など、6つの機能を持った居場所が自然発生的に生まれてきたのを、暮らしの保健室と名付け活動を始めて10年。今や50カ所以上に数を増やしています。

2019年度から3年間、日本財団の調査研究事業の事業助成をいただき、各地で先駆的に行われている暮らしの保健室の現地調査を行ってきました。さまざまな場所に行き、活動の様子を見せていただき、繋がりもさらに深まったその3年間を、調査メンバーで振り返りました。

メンバー:秋山正子、神保康子、村上紀美子、森さとこ、米澤純子
(NPO法人白十字在宅ボランティアの会)

※この座談会は2022年3月に行われました

1年目自治体が主体的に関与し、実績のある先駆的な取り組みをしている暮らしの保健室

肝付町 暮らしの保健室

仕掛け人は保健師さん

肝付町 暮らしの保健室(鹿児島県肝付町)

秋山:過疎地域での、空き家活用をした居場所づくりですね。最期までそこに暮らし続けるためには、まず医療政策も含めどんな工夫が必要なのかを探ります。そのために、積極的に地域住民と関わり、住民が主体になるように働きかけをしたというのがとても魅力的です。

米澤:広大なエリアにポツンポツンと住まわれているという、とても人口密度が低い地域に、その人たちが集まれる場所を3カ所つくり、そこを日替わりで開いていくスタイルでしたね。医療資源が少なくて、地域にデイケアの看護師が1人しかいないという状況で、話を聞くだけでもいいからと始められたんですよね。そして相談の場というだけではなく、利用者も運営側にまわって自分たちが活躍できる場にもなっているという、本当にいろいろな機能を持っていました。

秋山:暮らしの保健室は、そこに主体的に関わる人も大きな要素なので、保健師さんがその仕掛け人というのは、多くの所のモデルになるのではないでしょうか。

沼田町 暮らしの安心センター

豪雪地帯の工夫

沼田町 暮らしの安心センター(北海道)

森 さとこ森 さとこ

秋山:ここは豪雪地帯で、山のほうに点々と住んでいる人たちは本当に冬は動けなくなります。そこで、少ない医療資源をどのように住民の健康維持につなげていけばいいか、町長さんが住民とディスカッションを重ねていきました。
そして、年代や環境に関係なく、住民が自由に訪れ使うことのできる「場」所をつくりあげ、暮らしの保健室の機能としては、講演会、実技勉強会、個別相談会などが行われています。
東新宿の暮らしの保健室がオープンして間もなく、当時の町長さんが見学に来られ「今から計画する建物にこういうものを盛り込みたい」と感じ、それを本当に実現されたというのが印象的です。

村上:小学校中学校も統合し、住む人も集めてきてそこに総合的な行政サービスを集約した場所をつくっていて、そこに肝付(鹿児島県)と豪雪地沼田町との暮らし方の違い、風土の違いをすごく感じました。

森:沼田町は炭鉱閉山により人口が一気に激減しました。この状況に直面したときに、暮らしの保健室的な発想が出てくるというところ、すごく奥が深い取り組みなんだなと思いました。

ふじたまちかど保健室

団地と医大と市のコラボ

ふじたまちかど保健室(愛知県豊明市)

秋山:団塊世代が多く住むこの団地では、「大学病院はあるけれど、自分たちの健康を考えて、よろず相談所のようなものが欲しい」と団地自治会が動き、UR都市機構に上がり豊明市と藤田医科大学の三者が合体して事業を起こしました。
大学の訪問看護ステーションで得られた事業収益をまちかど保健室の活動資金として活用し、URは初期改装を、行政は広報や関係団体との仲介を担っていると伺いました。

森:学生・教職員が団地の4、5階の空き室に居住して多世代コミュニティを形成し、地域活動に参加する仕組みをつくられていましたね。

米澤:健康講座を教員が担っておられ、教養講座的な色合いが濃い保健室ですが、市民にとって大学の先生やお医者さんといった専門職の話を聞くよい機会だと思います。

秋山:そこから住民主体の活動につながると、とてもいいと思います。大学運営型の先駆的事例ですが、大学、行政、UR等との協働の在り方についても参考になると思います。

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