暮らしの保健室

暮らしの保健室の仲間たち:ふじたまちかど保健室〜愛知県豊明市〜

コミュニティの特徴

豊明市位置図

豊明市(とよあけし)は、愛知県のほぼ中央、名古屋市南部に隣接している。
緑豊かな自然環境と古い歴史に育まれ、快適な居住環境を備えた名古屋都市圏の住宅都市。桶狭間の戦いの主戦場となった桶狭間古戦場伝説地を有する。自動車産業のまちに挟まれたベッドタウンで、裕福な戸建てがたくさんある一方、外国籍や高齢者が団地に集中して居住している。

  • 快適な住宅都市として昭和40年代に建設された団地
  • 高齢化、外国人の増加が進むコミュニティ
  • 豊明市、藤田医科大学、UR都市機構の協働によるプロジェクトの展開
  • 団地の空き部屋に大学の教職員・学生が居住し地域活動に参加するしくみがある
豊明市基本データ
  • 面積:23.22㎢
  • 人口:68,832(平成31年1月1日現在)
  • 世帯数:29,491世帯(平成31年1月1日現在)
  • 人口密度:2964.3人/㎢
  • 年齢3区分別人口(2015年国勢調査)
    • ・年少人口(15歳未満):12.8%
    • ・生産年齢人口(15~64歳):61.6%
    • ・老年人口割合(65歳以上):25.7%
移動

国道1号、国道23号、伊勢湾岸自動車道、名鉄名古屋本線が市内を通過し、名鉄バス等の公共交通機関で移動できる。

社会資源

医療資源は、病床数1,435床(精神科、回復期病床含む)、高度先進医療・24時間総合救急・地域指向標準システムを特徴とする藤田医科大学病院があり、加えて診療所39カ所、訪問看護ステーション5カ所ある。
介護資源は、特別養護老人ホームと老人保健施設で計約700床あり、施設が充実している一方、在宅医療介護資源が少ない構造である。
藤田医科大学は、2013年2月に大学病院を併設する学校法人として、全国で初めて介護保険事業の認可を受け、藤田医科大学地域包括ケア中核センターを設立。訪問看護ステーション、居宅支援事業所、ふじたまちかど保健室、豊明東郷介護サポートセンターかけはし、地域包括ケア人材教育支援センターを運営している。

藤田医科大学・藤田医科大学病院
ふじたまちかど保健室のある「豊明団地」
  • 所在地

    愛知県豊明市二村台5丁目1-1他
  • 交通

    名鉄名古屋本線「前後」駅バス10分、徒歩25分
  • 団地の概要

    昭和46年に建設され、UR都市機構が管理。全55棟(分譲5棟、賃貸50棟)、2LD~3DK(39㎡~51㎡)。5階建てで、エレベーターがあるのは2棟のみ。全2,127戸。
  • 人口構成

    人口約4000人、約2000世帯
    高齢化率:約31% 高齢世帯:約60%、独居高齢者割合:約30%(市内平均の5倍)
    外国籍居住者が2000年から急増し30%を超える。約7割はブラジル系、他に13ヵ国の居住。
    外国人を除いた高齢化率は43.5%。
  • コミュニティ

    自治会の担い手不足もあり、一部は長年一緒で固定化。分譲団地と賃貸団地で別の自治会。
    賃貸は流出入が多く、隣を知らない。階段のみの縦の長屋状だが、団地の役員を決めるのが困難。
  • 生活環境

    銀行、商店が多く、バス通りであり比較的便利。
  • 社会資源

    2015年4月から「ふじたまちかど保健室」、藤田医科大学の学生・教職員が団地の4・5階の空き室に居住しながら地域課題を共有し、課題解決・支援に取り組む仕組み「学生居住おとなりプロジェクト」を開始。豊明団地の課題共有と解決の場として、行政、大学、UR、団地内自治会、団地内診療所医師、民生委員、地域包括支援センター、社会福祉協議会、民間企業などで毎月定期会議を行う豊明市主催の「けやきいきいきプロジェクト」が発足。
    2017年からは、地域包括支援センター、豊明東郷医療介護サポートセンターかけはしが開設。
豊明団地

ふじたまちかど保健室の概要

  • スタッフ

    看護師12人(兼務教員12人のうち、看護学科教員8人・リハ4人)、理学・作業療法士4人、ケアマネジャー4人、社会福祉士1人、事務員8人(常勤4人・嘱託1人・非常勤3人)交代で平日毎日常駐している。
  • 利用者数

    平均20人/1回
  • 設置主体

    大学
  • 開設日

    2015年4月
  • 所在地

    〒470-1131 愛知県豊明市二村台3-1-1 54棟1階106号
  • 電話番号

    0562-95-0311

暮らしの保健室の立ち上げ

ふじたまちかど保健室 管理者 都築 晃さんふじたまちかど保健室 管理者
都築 晃さん
立ち上げた人

ふじたまちかど保健室 管理者 都築 晃さん

藤田医科大学保健衛生学部リハビリテーション学科講師、理学療法士、医学博士。2013年から藤田医科大学地域包括ケア中核センター業務を兼務し、訪問看護ステーション、居宅介護支援事務所、ふじたまちかど保健室、豊明東郷医療介護サポートセンターかけはしの管理者を務める。

立ち上げたきっかけ

昭和40年代に建設された豊明団地は、住民の高齢化、核家族化に伴い、最盛期に比べ人口は半数以下に減少。高齢者3割、外国人居住者3割を占めるコミュニティへと変化したことにより、自治会運営への協力者の固定化、高齢者の買い物困難や認知症トラブル等が課題となっていた。また、階段昇降が困難になった高齢者が退去した後の4・5階の空き部屋が目立つようになっていた。

そのような中、2012年豊明市と藤田医科大学は包括協定を締結し、2013年藤田医科大学地域包括ケア中核センターが開設される。藤田医科大学地域包括中核センターでは、2014年新宿区の「暮らしの保健室」の活動に着目して、地域での活動の場を探していたところ、URから声がかかることとなり、豊明市と協働し、団地高齢者へのアンケートを実施し、“健康づくりや交流の場”を希望する住民ニーズを把握。2015年「ふじたまちかど保健室」開設となる。

ふじたまちかど保健室は、藤田医科大学とUR都市機構で、包括協定を締結。豊明市・豊明団地自治会の協力を受ける形で団地商店街の空き店舗にURにより設置し、藤田医科大学が運営を担う形でスタートとしている。

地域包括ケアモデルの実践

ふじたまちかど保健室の開設にあたっては、大学学生が住民の一員となり「地域課題の共有と解決」できる仕組みとして、「学生居住おとなりプロジェクト」を発足。、URと豊明市と団地自治会の協力により、大学生と教職員18名が団地の4階・5階空き室に居住し、多世代コミュニティを形成し地域課題の解決にむけた住民互助活動を開始した。

さらに、豊明団地の課題共有と解決の場として、行政、大学、UR、団地内自治会、団地内診療所医師、民生委員、地域包括支援センター、社会福祉協議会、民間企業などで毎月定期会議を行なう「けやきいきいきプロジェクト」を発足させた。

運営団体・スタッフ

運営は、藤田医科大学地域包括ケア中核センターが担い、先に立ち上げた訪問看護ステーションで得られた収益をまちかど保健室の活動資金として活用している。

URは初期改装を担い、行政は広報や関係団体との仲介を担っている。

スタッフは、大学の教職員である看護師・保健師5名、理学・作業療法士5名、ケアマネジャー5名、事務1名、計16名であり、専門職が交代で平日毎日常駐している。

訪れる人々・ボランティア・場所

利用者は、独歩可能な高齢者がほとんど。2018年度の開所日数は240日、来所者数(延べ)5,033人、一日平均来所者数20.9人、開催教室数440回、講座参加者数(延べ)3,985人、一講座平均参加者数9.1人、個別相談件数(延べ)217人、年間教室参加者の男女比21:79となっており、男性の割合が増加傾向にある。

要支援認定や認知症・運動疾患がある方が民生委員や地域包括支援センターからの紹介で、ボランティアとして活動し、他者と交流することで元気を取り戻し以前よりも活動的に過ごす人が多いという。

活動の場は、団地内の商店街の空き店舗、広さは約50㎡。

活動の様子

ふじたまちかど保健室は、月曜から金曜の10時~15時。
土日祝日は、講座があるときのみオープンしており、毎日午前と午後の2回、30分ミニ講座が開催されている。

①保健室の利用と相談理由

相談内容は本人、家族の健康不安が約8割で、30分以上じっくり相談している。、大多数がかかりつけ医を持っており、医療機関受診の前後での利用が多く、理解できる平易な言葉で、じっくり説明が聞ける点が良いとの感想が多いという。医療機関以外にも保健室を利用する理由は、「医師には遠慮して聞きづらい」、「この症状が病院にかかるほど悪いのか自分では判断できない」、「どの診療科にかかればよいのかわからない」、「ほっといてもよいならそうしたい」、「どんな検査をするのか不安だ」、「薬に関して、わかるように話して欲しい」などや、医療機関にかかっている最中の利用もある。「先生の言っていることがわからない(難しい、早い、忘れた)」、や「自分の症状を伝え忘れた」などもある。

②健康講座

健康講座は日替わりで、職員や大学教員など医療介護専門職による、疾患や治療、認知症予防体操、薬剤や検査相談、健康指導、介護や福祉用具相談、趣味やアクティビティなどが開催されている。特技を持っている住民に講師として講座を依頼することも多い。また、要支援認定や認知症・運動器疾患がある方も保健室でボランティア活動してもらっている。周辺の民生委員や地域包括支援センターと協力して、居場所や役割作りのために紹介してもらい、毎日の交流のなかで元気を取り戻し、以前よりも活動的にすごされている方が多い。

健康講座
③団地に居住する学生の活動

学生・職員に貸し出している部屋は約80戸あり、地域活動への参加を条件に、近隣の相場と比べると割安な家賃で、大学まで歩いて行ける距離ということもあって、入居を希望する学生は年々増えているという。ただし団地自治会が行う夏祭りや茶話会などのイベントの手伝いをはじめ、近隣の小学校の放課後教室で出張講座を開くなど、大学生は団地や地域の活動に年40時間以上参加することが義務付けられており、学生らによる活動は、団地内の住民に大変喜ばれているという。

夏祭り、防災、文化祭、もちつき大会などの自治会主催イベントへの運営協力を通して、学生は特に多世代とのコミュニケーションが上達する。独居高齢者との食事会では、食事や会話の交流の中で「病気だけでなく生活を診る視点や地域課題」を学んでいる。高齢者の生活困難を知る中で「学生による買い物支援活動」が生まれ、さらに民間事業所の協力を得て団地内だけでなく市内全域への購入品の戸別宅配販売サービスが生まれた。

他にも団地内で経済困窮、いじめ、不登校などの問題を抱える子どもに「楽しい時間」を提供したいと「子ども向けイベント」を主催。「子どもまつり」、「クリスマス会」、「小学生学習支援の寺子屋」を学生企画として毎月開催している。

丘陵地に団地があり、段差や勾配が多いためバリアフリーマップを学生らが作成した。防災倉庫やAED利用時間帯も調査したマップを作成し、このマップを利用して子どもから高齢者まで楽しめる「健康ウォークラリー」を開催し毎年100名近い参加がある。

市防災課や消防署と共同して避難所運営訓練や消防体験を団地学生に行ってもらい、災害時の避難所運営を手伝える体制を準備している。また、地元の豊明高校生へ呼びかけて、大学生とともに自治会活動を行う合同イベントは、年間80人近い豊明高校生の参加があり住民にも大変好評である。

市内外の民間事業者も団地活動に参加するようになり、買い物支援サービスや、温浴施設への移動支援など民間による公的保険外サービスの導入による支援が増えてきた。大学生が結びつけ役となり、団地内外の「ひと」があつまり、夏祭りや秋祭りなどは周辺住民の参加が再び増加し、離れていた子供や若者世代の参加が近年急激に増え活気が戻ってきたと自治会より驚きの声があがっている。

学生の活動

ふじたまちかど保健室を訪れて

ふじたまちかど保健室を訪れると、健康講座をめがけて集まった高齢者の皆さんは慣れた様子で体操を始めた。ミニ講座のテーマは「知ってほしい慢性腎臓病のはなし」。腎臓のしくみから病気の原因、予防に至るまでわかりやすい講義が行われ、自由に発言しながら、楽しんでおられる様子は元気そのもの。ふだんかかりつけ医に言えないことも、何でも言え、聞ける場所。皆さんの学びの場であり、交流の場でもあり、安心な居場所となっていることを強く感じた。

学生の皆さんにはお会いできなかったが、学生が地域で暮らし、地域活動に参加できるしくみとその波及効果には感動するばかりであった。学生の育成の場は、多世代との交流の場となり、そこから多くの人々をつなげ、新たな社会資源を生み出している。一つの動きが地域では思わぬ方向に発展する面白さがある。地域包括ケアシステムの一つの資源として、大学という組織が地域共生社会に向けて果たす役割は大きい。ふじたまちかど保健室は大学運営型の先駆的事例であるが、大学、行政、UR等との協働の在り方についても、ぜひ参考にしていただきたいと思う。

取材日:2019年12月20日
レポート:米澤純子 撮影:神保康子

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