暮らしの保健室

3年間の調査を振り返って

2年目地域特性を生かした暮らしの保健室

まちの保健室 應典院

看護協会とお寺の看仏連携

まちの保健室 應典院(大阪市)

秋山:昔はお寺と住民とのつながりが強くて、そこに行けば誰かに会えました。それで、天王寺地域が活性化するためにも、看護師がお寺に関わることでいい動きができるのではないかと考えたわけですよね。そこに助産師、保健師も入り、隣接する應典院の幼稚園に子供を迎えにきたお母さんが、下の赤ちゃんの計測をしたり、育児相談をしたりということで、町のニーズに対応している様子はなかなかよかったです。

神保:いろいろな人が集まってくる開かれたお寺という風土があったところに、「看仏連携」提唱者が、大阪府看護協会と應典院を縁結び。定年退職した保健師や助産師が有償ボランティアで看護協会から派遣されて相談に乗る形で、お寺でのまちの保健室が実現したんですね。そこでも、應典院ご住職と主査の福祉コーディネーター的な動きとのタッグは大きいと思いました。

村上:看護協会の地域活動のひとつのスタイルとしてとても素晴らしいと思います。

福町庵

夢を叶える

福町庵(堺市)

秋山:ここに住んでおられた老姉妹のところに訪問看護に入っていたご縁で、土地を提供されたのですが、改修し終えたその日に火事が起きてしまいました。でも、隣近所からの「頑張りや~」の応援で、新しく建て直されたという逞しさ、バイタリティには脱帽です。

神保 康子神保 康子

村上:個人としての気持ちで、すごく大きなものを動かしているという印象でした。本当に気持ちのこもった設計ですね。それから、「パンフレットがあります」ではなく、ここを利用したい方それぞれの細かいニーズに合わせて「できることをさせてもらいます」というのがとても印象的でした。

神保:その方の夢を叶えるという姿勢ですね。お看取りが近い方にも、温泉気分を味わってもらえるようにと坪庭をつくられました。それから、最後にレストランに行きたいと言われた方は、お料理上手なお仲間のサポートで、ここでご家族といい時を過ごされたそうです。昔ながらの街道筋の静かで、とても居心地のよい所でした。

歩く暮らしの保健室 鞆の浦・さくらホーム

社協との連携

歩く暮らしの保健室 鞆の浦・さくらホーム(広島県福山市)

村上:さくらホームの施設長が車で町の中を案内してくださったときに、行きかう人とあちこちで挨拶されている姿を見て、彼女の存在自体が暮らしの保健室だなと思いました。秋山さんは「歩く暮らしの保健室ね」と言われましたが、言い得て妙ですね。この取材に伺ったあとで、「寄りたいときに立ち寄れる暮らしの保健室があると、なおいい」と考えられて、建物探しをしていらっしゃるそうですので、今後の展開がとても楽しみです。
また、社協は旧鞆町の中に何カ所もサロンを展開していますが、組織力もある社協との連携は、メリットが大きいと思います。

森:社協の「住民主体の地域活動の支援」には、暮らしの保健室の6つの機能(相談窓口、市民との学びの場、安心できる場、交流の場、連携の場、育成の場)に照らし合わせても、既に当てはまるものがありますね。

米澤:暮らしの保健室のような活動は、社協とも連携すると、もっともっと広がっていくと思いました。

暮らしの保健室 ふくまち

スナックで医師とおしゃべり

暮らしの保健室 ふくまち(広島県福山市)

米澤:地域密着型特別養護老人ホームをつくるにあたり、すごくこだわって入口に素敵な暮らしの保健室ふくまちを併設しています。ふくまちを立ち上げた法人理事と特養施設長のお二人は、地域のニーズを鋭くキャッチして、それを実現化し、広げていく力があります。小学生のための寺子屋、老人ホームの高齢者やデイケアの利用者と夏祭りと、楽しいことを次々と発信されていて素晴らしいと思いました。

米澤 純子米澤 純子

森:夜はスナック開店で、割烹着姿のママを交代でやっていらっしゃいますね。一番来てほしい壮年期の男性が、あまり真面目な雰囲気だと来てくれないというところに、素直に合わせていくところが柔軟だし、特養のユニットの名前が小学校区の子供会の名前と一緒という発想もすごいと思います。

村上:地域密着型特養は、地域交流スペースを設けることが決まっていますが、物置になっているところも多いようです。ここの活動は他でも参考になるのではないかと思いました。

クロッセ秋田 暮らしの保健室

駅近の相談の場

クロッセ秋田 暮らしの保健室(秋田市)

秋山:駅前のビルの建て替えに伴い、土地の有効活用で3階以上をCCRE(高齢者が健康な段階で入居し、終身で暮らせる生活共同体)にしました。そこには健康相談のニーズもあるだろうということで、暮らしの保健室を開設したところ、大学病院や県立病院への通院帰りに寄る人も多いようです。新しく建てられる集合住宅に相談の場を組み込んだ、ひとつの新しい動きです。
実は、秋田大学の敷地内にも「おらほの暮らしの保健室in秋田大学」があって、大学病院の近くだしそれなりの活動はしていますが、一般の人が気軽に行くには場所的に少し難しいようです。でも、大学教員が地域に向けてそれぞれの専門性を生かせるひとつの活動かなとは思います。
そこの経験も踏まえて、駅近でしかも上に住宅があり多様な人が立ち寄れるという利点を生かした在りようは、これから何かそういうものを建てるときには、暮らしの保健室のようなものがぜひ必要ですよというメッセージはありだと思います。

あきた森の保健室

地域の人に対する思い

あきた森の保健室(由利本荘市)

村上:このクリニックの院長の地域の人に対する思い、地域を大事にしたい思い、自分を育ててくれた地域にお返しをしたい思い、それがすごく伝わってきました。

森:「保健室で多職種の人たちとカンファレンスをすることで、お互いに腹を割って話せるようになり、とても仕事に生きている。それが、保健室ができたことの価値です」とおっしゃいましたね。

秋山:院長は、患者さんの物語を聞き取り、診療にいかそうと、佐藤伸彦先生が構想されたナラティブブックを活用しITを使って情報共有をしておられます。

神保:東新宿の暮らしの保健室の利用者さんで、秋田から東京に呼び寄せられていた方が、いつも帰りたいとおっしゃっていて。あきた森の保健室と連携して、ご自分の家に帰ることができました。後日秋山さんが様子を見にいらしたときは、元気に一人暮らしをエンジョイしていらしたと。その後、地元の特養で亡くなりましたが、希望が叶って帰ることができたのは本当にミラクルでした。

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