3年目看取りを視野に入れた活動をしている団体が運営する暮らしの保健室
秋山:地域とのつながりがあって活動しておられますが、地域に開かれたという意味では今からの取り組みという感じですね。今後の展開が楽しみです。
村上:母体のホームホスピスにじいろのいえの立ち上げの際、宮崎本部(全国ホームホスピス協会)がビシビシと審査したそうですが、何を言われても全くへこたれなかったと聞いています。
神保:「看取り」なとどいうと、最初は地域から歓迎されないことがあっても、諦めずにうまく折り合いをつけておられる印象を持ちました。どんな障壁があってもオプションとしての相談室を開く意味は大きいと思います。このコロナ禍でも、相談室では積極的にオンラインを活用し代表理事の息子さんも活躍しているご様子。
森:他の土地から来ても、仕事をしていく中でその地域に溶け込んで実績を積み、その発展形で暮らしの保健室的なものにつながっていくことも多いですかね。
村上:その土地に元々いる人が「そんなものだろう」ということも、よそから来た人は「これは何」と思ってその地域が見えてくることはあると思います。
神保:ホームホスピスを始めたいという思いでとにかく始めて、行政とのやり取りが難しかった時期もあったというお話でしたね。そこは、元有床診療所を改装したところで、相談業務は入り口近くに丸テーブルを置いて始めたそうです。地域で地道にそういう活動をされていると、「この土地を使ってください」と言う人が現れたりするようですね。伺ったときは、近くの広い土地に立派な建物を建築中でした。今は相談室もそちらに移っています。
米澤:根を張って活動していると、そうやってつながっていくんですね。
村上:暮らしの保健室は儲かりませんが、利益の出る事業と組み合わせて上手に実現できていますね。
秋山:その地域ニーズを拾っていくと、看取り以外の問題が見えてくる。そして、まだ重くなってない人たちの気軽な相談に応じていき、予防的な関わりをもっていくことで、その後の経過を穏やかにする。そうなると、やはり、その入り口の暮らしの保健室のような働きは必要になると思います。
米澤:神戸の全国フォーラムの時、お年寄りたちが「あの人みたいに逝きたいよね」と、死ぬときのことを語り合っていると聞いて、すごくいいなと思いました。みんなで死を受け止めて、それを普通に語り合える場をつくっていることと、そういう文化が根付いているのがすごいことだと感じました。
- 村上 紀美子
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森:そろそろ、高齢者は死について語ることをいやがらなくなっているのかもしれませんね。ですから、若い人たちの感覚で死をタブー視してしまってはいけないと思います。
秋山:そこに集う高齢の方々が、死ぬことをそんなに怖がらずに普通の話題にしている、それはいい形で良い看取りにつながっていくと思います。ここは本当に85歳前後の一人暮らしの高齢者の多い地域で、相談の場所というよりも、居場所というか立ち寄って人とつながれる場所が必要だということでした。そういう場を提供して、自分たちで考えて相互に支え合う地域づくりがこれから必要ではないかということですね。
秋山:暮らしの保健室をつくって、こういう機能を持たせようということではなく、特にがんの方の在宅看取りで一生懸命関わっていく中で、地域ニーズを掘り起こし、必要なものを生み出していった中のひとつが、暮らしの保健室のような働きができる場所ですよね。居場所をつくったり、誰かと誰かをつなげたり、ボランティアさんを育てたりもされてますね。
森:元院長は「できないことを考えるのではなく、どうしたらできるかを考える」ということと、いろいろなことをやっているけれど、「責任は私がとる」ということを常におっしゃってるそうですね。
村上:エールは、相談や訪問の機能だけではなく、他機関の専門職や医学・看護学・社会福祉学を専攻する学生たちの人材育成の役割も担っているということで、必要に応じて本当にいろいろなことをされている感じですから、「インタビューされて、自分たちのやっていることの整理になってすごくよかった」とおっしゃってましたね。
秋山:暮らしの保健室自体は収益性がありませんが、看取りに取り組むホームホスピスのようなところが、地域に開かれた居場所をつくるのは必要なことだと思います。
米澤:介護が必要になると、地域包括や介護サービスがありますが、歩いて行ける所に暮らしの保健室があればどんなにいいだろうと思います。そして、支援を受けるだけではなくて自分の力を発揮できる所に変化するというのは、暮らしの保健室ならではと思います。
村上:違う形でもいいので、あちこちに第三の居場所ができて、ゆるゆると手をつなげたらいいなと思います。
秋山:これが必要だとか、誰かがやらないとみんなが困るとか、そういうことに敏感な人たちが集まって必然的にできたひとつが、こういう居場所ですよね。お元気なときからずっと関わりが続いていて、ちょっとしたことで相談ができて、その結果病気になってもいろいろなことが起こっても支え続けられるということです。
秋山:地域ニーズをキャッチしていても、病院中心で動いてきた看護職だと「いろいろなことを聞かれてもわからないから、そんな怖いことは始められない」という不安を持ちがちです。でも、相談する人と受ける人との関係が横並びであることが、とても重要になります。病院の管理体制の中にいた人には、その感覚を外すことが大きなハードルになります。
村上:他でもそのような話は結構あります。暮らしの保健室は、よく聞いて一緒に考えるという形ですが、病院で師長さんをされていたような方は、責任感が強く「ちゃんと教えてあげないと」と思ってしまうようです。それで、機会をみつけて他で活動している人たちと交流してもらうと、少しずつわかってくるそうです。そういう意味でも、暮らしの保健室の全国フォーラムはすごく大事だと思います。参加することで、毎年振り返ってリフレッシュすることができ、暮らしの保健室マインドを思い出してもらう、いい機会になります。
秋山:今日はたくさん一気に振り返りましたね。全国にそれぞれの地域特性や始めた方の個性を生かした活動が芽生えて、仲間が増えているのを再認識できました。オンラインも含めてでしたが、現場に行って実際にその周りの景色や集う人々の表情も見せてもらい、直接話を聞くことができ、とてもよい経験ができたと思います。このような機会をくださった日本財団さんに心からお礼申し上げます。